私がまだ学生の頃、恥ずかしながら花とか樹木は、あまり好きではなかった。何故か草花、樹木の花、葉の形、冬、葉が無い時は樹皮、冬芽など覚えるのが必須で、花がきれいだとか、樹形が良いとか考える暇、余裕などなかったからである。
だが、東京の造園屋での修業時代、帰り道アパート近くに公園があり大きなソメイヨシノの木があった。いつも帰るのが遅かったためソメイヨシノに気づかなかった。ある時、そのソメイヨシノは、満開の時を過ぎ大量の花びらが絨毯のように舗道に敷き詰められていた。この光景を見た時、初めてソメイヨシノの花が美しいと感じた。その時、大人げなく歩道の花びらを集めては空に投げ桜吹雪を一人で何度も行った。遠山の金さんの決め台詞、「この桜吹雪が目に入らぬか」この日の桜吹雪がたっぷり目に焼き付いたものです。
ソメイヨシノは葉が出る前にみごと満開となるが、散るのも潔い。咲いて満開となっては、数日で惜しげもなく花を散らす。散り際も立派である。本当に美しい花だと思う。
また、修業時代、春は沈丁花、夏はクチナシ、秋は金木犀、銀木犀などの香りが良い樹木が好きになった。この頃から初めて花や樹木が好きになり名前を多く覚えようと思うようになった。
旭川で家業を継ぐようになり、もう40年を過ぎるようになった。従業員達は生業(なりわい)として(生活のため、お金を稼ぐための手段が生業)。仕事とは、弊社の業種なら、木の名前や特徴を覚え、どの向きに植えたら本来の樹形になるのか、この枝はどちらの方向に育つように剪定したらよいのか、今日ここまで仕上げよう、あるいは今日はこんな方法で作業してみようと、無益の活動、未来を創る活動であると考える。つまり、生業として作業は行うが、仕事としての作業は行わないのが今の若い人だと思う。
私はいつも弊社従業員に北海道でよく見かける樹種は、約140種前後、庭や公共事業で使用するのはせいぜい50~80種ぐらいであるので、80種ぐらいは最低限覚えなければならないと言うが、一向に覚える気がない。単純に木の名前を覚える事など、自分の仕事として携わっていかなければならないという事と理解していない。仕事とは、ただ時間から時間指示された事をやれば良いと考えている。このような者たちは、木の名前を覚えるとか、仕事の段取りとか、木や花の美しさとか、木の枝ぶりの成長の在り方、地に咲く小さい花を見て、けなげだな、かわいい花だなとか、冬はどの様な形態で乗り越えるのか、一生考えず生きていくと思う。
昔、自社に元旭川市長、坂東徹さんが書いた色紙があった。そこに書かれた言葉は「花を愛で、緑を愛す」と綴ってあった。本当に花や木、生き物が好きな人であった。
一般社団法人 日本樹木医会
樹木医登録番号 1860号
㈱旭川公園管理センター
樹木医 内 田 則 彦