コラム

松の香り

 私は、1983年3月~1984年4月にかけて13か月間、カリフォルニアで造園実習に励んでいた。肩書は、Landscape Architect(ランドスケープアーキテクトとは、屋外空間の計画・設計・管理を行う専門家のこと)であったが、設計から施工、剪定、草刈りと造園に関する仕事すべてを行っていた。当時は、日本ブームで日本庭園、寿司、電気製品などは大変な人気であった(Made in Japan)。

 

 ある日、カスタマーから依頼を受けてマツの剪定を行いました。剪定後、切った枝葉を部屋の中に運んでくれと頼まれました。その運んだ枝葉を今度は、部屋の片隅に敷き詰めていました。

 私:「なぜ、こんなことをするのか?」

 客:「こんなにいい香りがするのに捨てるがもったいない。」

とのことでした。

 確かに日本でも風呂桶や建材にヒノキや杉が使用されることがある。また、針葉樹(マツの葉)から抽出する精油、αピネン、リモネン等をアロマオイルとして使用しますが、直接部屋に枝葉を敷き詰めて芳香剤のように使用するのは初めて見ました。さすがアメリカ人は違うな、家の中で靴を履いて生活する人たちはどこかワイルドである。日本でも丁度この頃、森林浴とかフィトンチッド(樹木が自己防衛のために発散する芳香)などが注目されはじめたと思っています。

 私が住んでいた東京のおんぼろアパートでは、石鹸がよくなくなるのを不思議に思っていました。ある晩、寝ていると押し入れでゴソゴソ音がしたと思ったら、枕元を黒いものが走っていきました。それは丸まる太ったネズミでした。次の日ネズミが出入りしている穴を探し、近所から杉の葉をとってきて穴に詰め込んでやりました。ネズミは杉の匂いが嫌いなようです。北海道ではネズミと言えば「エゾヤチネズミ」。山で見た一番大きな奴は白菜の玉ぐらいありました。エゾヤチネズミは、せっかく植林したカラマツの苗木を食べてしまいますが、グイマツは食べません。そこで成長の早いカラマツとネズミが嫌うグイマツをかけ合わせF1苗(異なる形質の親をかけ合わせて作られた第一世代のこと)を作って山に植林しています。

 以上、マツの香りは人々の生活に利用されてきました。しかし、元々はマツが外敵から身を守る防御メカニズムなのです。

 

一般社団法人 日本樹木医会

樹木医登録番号 1860号

㈱旭川公園管理センター

樹木医 内 田 則 彦